Sunday, April 08, 2007

大リーグ放映権

第1回 ヤンキース入りした松井秀が、「ボクがメジャーに行ったら、イチローさんみたいに試合を中継してくれますか?」
(05/08/01)抜粋:日刊ゲンダイ連載【立花孝志 大リーグ中継の内幕】

3年前のオフ、松井秀喜がヤンキースへの移籍が決まったあと、NHKの関係者にこう言ってきたそうだ。NHKは現在、年間約300試合の大リーグを中継している。大リーグの試合はNHK、フジテレビ、TBS、BSi、BSフジ、スカパーが放送権を持つ。 BSに関してはNHKが30球団のうち14球団のホームゲームの放送権を優先的に取れる。

地上波の放送権は30球団の主催試合をNHKと民放2社できっちり3等分しているが、NHKが選んだ10週間分のゲームを優先的に中継できることになっている。 NHKはア・リーグ、ナ・リーグ30球団の中からイチローや松井秀など日本人選手がいるチームをピックアップする。それから日本でもなじみのある球団を取る。イチロー(マリナーズ)、松井秀(ヤンキース)、野茂(現ヤンキース3A)などがア・リーグ球団に属しているため、どうしても同リーグの試合が多くなる。

さらに放送権を持っていない残り16球団のホームゲームの中から、20試合を中継できる。これをワイルドカードと呼んでいる。 残り16球団のホームゲームはBSではBSiとBSフジが放送権を保有している。ヤンキースやマリナーズがビジターに出た試合をNHKではなく、民放の地上波あるいはBSが放送するのはそのためである。 

大リーグは1球団年間162試合を戦う。主催試合は81。ワイルドカードを除く、14球団のホームゲームだけでも1134試合の放送権をNHKは持つ。 松井秀喜がヤンキース入りした2003年には年間334試合を中継した。松井秀喜の心配は杞憂だったのである。それでも800試合以上は中継せずに“捨てて”いる。もったいないので、フジやTBSにまた売りをしたらどうかと提案したこともあったが、受け入れられなかった。ちなみにその年の日本のプロ野球の中継試合は149。 NHKがこれだけ大リーグ中継に力を入れるのは野茂の1年目の活躍で衛星放送の受信契約数が飛躍的に伸びたからだ。その後、マグワイアとソーサの本塁打記録争い、イチローや松井秀喜の活躍が追い風になり、受信契約を伸ばした。 それではNHKは放送権料として一体、いくら払っているのか。

第2回 海老沢会長が激怒して放送権料が年間36億円が25億に
(05/08/02)抜粋:日刊ゲンダイ連載【立花孝志 大リーグ中継の内幕】

年間約25億円。これがNHKが払う大リーグの放送権料である。5年契約が切れたため、2004年に契約を更新。それまでの約2倍で5年契約を結んだ。 それでも当初の契約交渉の段階では金額は約36億円だった。もともと大リーグ中継の放送権は電通がMLB(大リーグ機構)から購入。それをNHK、TBS、フジ、BSi、BSフジ、スカパーの6社に販売する。03年限りで契約が切れるため、電通は年間約36億円の5年契約で放送権を買った。前回の3倍である。

それをNHKに売り込んだのだが、当時のNHKの海老沢会長の逆鱗に触れたと聞いた。というのもBS放送が開始した直後、NHKの関連会社であるMICOがMLBとPGA(米プロゴルフツアー)の両者と直接交渉を行おうとしたからだ。代理店を介在させなければ、より安く放送権を購入できると考えたからだ。ところがそれまで両者の放送権を持っていた電通が「MLBだけはウチに放送権を残してほしい」とNHKに泣きを入れたという。そして電通に放送権を譲った経緯がある。それが突然、3倍のカネでの契約延長の話。昔の恩義を忘れたのか、と激怒した海老沢会長(当時)は「メジャーリーグの中継なんかしなくてもいい!」とまで言ったと聞くが、結局、電通の関係者が海老沢会長の自宅前で土下座して陳謝。 

海老沢会長は「2倍以上は出せない」と値下げを要求。電通側が受け入れ、前回の約倍の年間約25億円で妥結したのである。民放の放送権料はNHKの10分の1くらいだと聞く。だからこそ前回書いたように、NHKが優先的に中継できる球団、試合を指定できるのである。さて電通は36億円で売るはずのメジャーの放送権が25億円でしか売れなかった。NHKは大助かりだが、電通にとっては大きな損失だ。ところが電通はそれを逆手にとって新たな商売、収益源を生み出した。それがNHKの大リーグ中継にも波紋を招くことになる。それは一体なにか。


第3回 NHK中継に民間企業CMが映るカラクリ
(05/08/03)抜粋:日刊ゲンダイ連載【立花孝志 大リーグ中継の内幕】

テレビ視聴者にしか見えないバーチャル広告なのだが前回、NHKの大リーグの放送権料が当初の年間約36億円から、約25億円にダウンして契約した話をした。MLB(大リーグ機構)から放送権を購入した電通としては、単純に計算しても約11億円の差損が出る計算だ。ところで大リーグの中継ではバックネットの下のフェンスに、日本の民間企業の広告が映ることがある。実際のメジャーの球場にはない看板広告だ。テレビの試合中継にかぶせて映っているだけで、テレビ視聴者にしか見えないものである。

いわゆるバーチャル広告だ。実はあれが約11億円の差損と関係がある。約11億円の差損が生じることになった電通はその代わりに、NHKが放送する試合の事前通告とバーチャル広告の了解を取り付けた。すなわち、NHKが中継する試合を事前(1カ月前)に連絡してもらい、それに合わせて企業からバックネット下の広告を取るのである。

その際、米国のテレビ局が中継する試合をそのまま流すのでは広告は入らない。大リーグの試合を中継する米国のテレビ局は、MLBI(大リーグ機構インターナショナル)にも映像を流す義務がある。その映像をMLBIは世界各国、各地域に流すのだが、その段階で電通は募集した企業の広告をゲームの画面にかぶせる。もちろん、MLBIの許可を取ったうえでのことである。中継の最中にNHKのアナウンサーが、「これは大リーグのアジア向けの放送をそのまま流しているため、広告が映っております」と言っているのはそのためだ。 NHKで全国放送される影響は大きなものがあるのだろう、電通はそのバーチャル広告で差損を上回る収入をあげているとも聞いている。

NHKには一銭も入らないのだが、バーチャル広告が入ったから放送権料も安くなったという考え方もできる。 大リーグ中継に限らず、スポーツと企業スポンサーは今では切っても切れない関係にある。その両社の関係を考えさせられる出来事でもあった。

第4回 大リーグの年間放送権料は高いのか?
(05/08/05)抜粋:日刊ゲンダイ連載【立花孝志 大リーグ中継の内幕】

大相撲・Jリーグ・プロ野球に比べて、NHKの大リーグの年間の放送権料が約25億円であることは以前書いた。他の競技と比較するとどうなのか。例えば大相撲は年間30億円、Jリーグは19億円、ウィンブルドン・テニスは約8億円、米プロゴルフツアーは約15億円、プロ野球は巨人戦の1試合1億7000万円を含め、約35億円である。メジャーの放送権料が高いか安いかは、関心を持つ度合いにもよろうが、製作単価だけをみると実は安上がりなのである。昨年NHKは大リーグの試合を311試合、中継した。1本当たりの製作単価は1時間で473万円。大リーグはアメリカから映像が送られてくるからだ。

日本のプロ野球やJリーグなどの試合を放送するには、現場に中継車を出し、アナウンサーや技術部員などスタッフを派遣。独自の映像を作らなければならない。メジャーリーグ中継では、送られてくる映像にかぶせて実況や解説は必要だが、現場にスタッフや機材を出すことはまずない。同じ野球でもプロ野球では製作単価は1時間当たり1096万円と倍以上かかるし、国内プロゴルフはさらに高く2301万円になっている。これはゴルフが野球やサッカーなどより、カバーする場所が広いからだ。ちなみに米ゴルフツアーは976万円と国内ゴルフの半分以下だ。逆に土俵を中心に映している大相撲のそれは838万円とプロ野球より低くなっている。 しかも大リーグ中継はサッカーなどに比べ、1本当たりの放送時間が平均3時間と長い。さらに地上波、BS、ハイビジョンの一体化放送をしていることもメリットになっている。

私が入局した20年前に比べ、NHKの収入は約倍の約6800億円にアップしている。それには大リーグ中継が寄与しているのは間違いない。 ちなみに今週末から始まる高校野球甲子園大会は夏、春とも放送権料はゼロである。 大リーグ中継の話はこれでひとまず終わりとさせていただきます。ご愛読ありがとうございました。

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